Itui

 小説        「松田聖子に憬れて。」

 メゾン・イナハ214号室。松井秀喜。カーペットのザラザラ感が妙に気持ち悪い。エアコンは去年の夏に壊れたままで、まるで遺影のようにただそこにあ る。タンクトップはすでにびしょ濡れだから脱ごう。下半身だけ何も履いてないのはおかしいし。午後二時二十三分、テレビではオリンピックが流れており、丁 度今年から採用された新体操が会場を騒がせていた。

 某テレビ局楽屋214号室。松浦亜弥。馬耳東風。トップアイドルはブラウン管ではメディアの一要素としてお茶の間に喜怒哀楽を送つづけるが、本人たちは 全くと言っていいほどその恩恵を被ってはいない。アダルトビデヲなんかより刺激的な対人関係は、彼女たちに常にエクスタシーを与えるし、現に、自分が SEXをしているときにオナニーをしたいぐらいなのである。だからトップアイドルは仕事中にオナニーをするし、撮影の合間にはラブホテルに直行するのであ る。

 精神病棟214号室。工藤新一(江戸川コナン)。エレベーターから続く長い廊下を奥まで歩いて左手の病室が彼の部屋である。五年前この部屋に来てから、 彼はずっと窓の外を眺め入院中の四分の三は過している。たまに、庭に散歩に出るのだが、蝶を捕まえては羽をむしり殺してしまうので、今では看護師同伴でな くては散歩に出ることはできない。ただ一つ、彼の夢は、「いつか松田聖子になる」ことなのである。


 続く